競争・変化に耐え得る社会を
 今の政治に思う
         財務大臣 谷垣 禎一氏 vs 内外ニュース会長 清宮 龍

 内外ニュース東京懇談会6月例会ほ21日、東京・赤坂プリンスホテルで行われ、財務大臣の谷垣禎一氏が「今の政治に思う」と題し、当社清営会長との対談形式で講演した。谷垣氏は、推し進める改革の目的の「世界および日本の変化に耐え得る社会をつくる」ためには、「みんなでやろうぜ」の気持ちが大事で、それが氏の言う“絆”だと語った。また、郵政民営化に反対して自民党を離党した議員らについて、来年の参院選に向け「どこかで手を組む必要があるのではないか」との考えを述べた。一方、党総裁選の立候補に必要な、国会議員20人の推薦人確保に関しては、「大体いけそうな感じはしている」と自信を示した。  (講演要旨は次の通り)

「みんなでやろうぜ」絆の気持ち
 郵政民営化反対自民離党議員 参院選に向け連携を


 清宮 谷垣大臣はよく 「絆」ということを言っておられるが、なかなか分かりにくい面がある。その点で今、政治が何をどうするのか、その先にどのような国家の姿、国民との間の関係というものが浮かんでくるのか、まず、お伺いしたい。
 谷垣 「絆」(という言葉)は、私は2〜3年前から言っている。小泉内閣は今年で5年になるが、小泉さんが直面されてきた改革の諜題には、引き継がざるを得ない面がある。一つは、日本の人口は既に減少局面に人っており、それに対応できる国と社会をつくらねばならないこと。
 もう一つは、国際的な競争条件の変化だ。中国、インド、ブラジル、南アフリカなどが素晴らしい成長を遂げている中で日本は、共存だけではなく、競争に勝つための改革もやらねばならない。その結果、国民の中に「この改革の行く末は、弱肉強食ではないか」と、若干の疑問と迷いが出てきた。
 そこで、改革継続の目的は「今のような世界および日本の変化に耐え得るような社会を(みんなで)つくること」なのだ、というところをはっきり打ち出していくことが、さらに改革を推し進める基礎になる。そのことを私は、“絆”という言葉で言い表している。
  (日本の)国、地域社会そして家庭は、自分も(無関係ではありえず)それぞれの大事な(構成)メンバーであり、やっぱりこれは国民みんなのものである。平たく言うと「みんなでやろうぜ」の気持ちをつくっていくことが、「(改革の目的は)弱肉強食ではない」ということを示していくうえで、一番必要なのではないか−と。
 清宮 総裁候補として伺いたいのは、まず外交問題。対中国、対韓国問題をどう是正していくか、それに関連して、避けて通れない靖国問題についても。
 谷垣 アジア外交は大変大事と思っている。10年前に起こったアジア金融危機を2度と引き起こさないためには、日本、中国、韓国の連携が必要だと。みんなそう思っている。しかし、中国の地位が10年前に比べ非常に大きいので、日本と中国が基本的に腹をあわせ、金融危機を早期に抑えきる覚悟が必要だ。
 靖国問題では「戦略的あいまいさが必要だ」と、私はずっと言ってきている。アジアの問題を靖国だけの問題としてとらえて、ここだけで議論するのはあまりよくなく、それは大きなアジア外交全体の中で議論すべきだ、というのがーつの理由。また、靖国問題は、中国や韓国がどう言うかではなくて、日本人が戦争で亡くなった方々をどう慰霊し、前の戦争にどうけじめをつけていくかだ。日本人自身がその主体性の中で考えて結論を出きなければならない、という気持ちが私にある、というのがもうーつの理由。
 清宮 お互いがまあまあ、それでは話をしようか、というあいまいさの中で、いろんな関係が改善され、アジア外交がうまくいく−それも谷垣さんならできるのかなと。あんまりはっきり言ってしまわないほうがいいという面も確かに。
 谷垣 日中、日韓にせよ良くて幅の広い関係だから、お互いにうまくいかない、面白くないことも起こってくる。全部いちいち捉われていたらなかなか進まない。要はお互いに切っても切れない関係にあるのだ、と双方の指導者が思っていれば、トップ会談ができないような状況でも、必ず解決の道はある。
 清宮 日本の中で、あの戦争に対するけじめは60年経ってもまだついていない。けじめのつけかたで、靖国神社というものはいっぺんに解決するのではないか。
 谷垣 私は実は、けじめがついていないとは思っていない。第1次大戦後、ドイツヘ過酷な賠償を課した戦争の収め方がヒットラーを生み出した、ということが歴史上の教訓となった。第2次大戦が終わった時に、過酷な賠償も課さず、どうやって収めるか、政治的に言えば、極東軍事裁判のような仕掛けがなければ戦争は終わらせられなかったなと。
 清宮 対米外交だが−。戦後日本は協調路線をとってきており、イラクにも自衛隊派遣などで協力している。しかし、アメリカの関心は中国に向いており、アメリカ議員の訪中も、日本に来る人よりはるかに多い。この状況をどうみて、どういうふうに変えていけばいいのか。
 谷垣 日米関係は日本の外交にとって、一番基本的で大事な関係だ。非常に成熟した関係であり、アメリカやEUにしても「日本は価値観を同じくするパートナーだ」という気持ちは強く持っている。
 しかしもう一つ、中国では、外貨準備とか貿易量とかの(膨大な)数字が一挙に拡大してきている。それにどう対応するかは、アメリカも未経験な世界だ。中国の異常な成長をどう自分の国とリンクさせていくかは、どこの国にとっても関心を払わざるを得ない。靖国がどうした、日中外交はどうするのかと、日本(の国内)で問われていることと同じ局面ではないかと思う。私はそんなに心配はしていない。
 清宮 次に内政の問題。小沢民主党が誕生し干葉補選で自民党は負けた。来年の参議院選挙だが、どういう手を打ったらいいと考えておられるか。
 谷垣 小沢さんが注目され、影響力をお持ちなのは2つある。一つは選挙がお上手で、選挙のプロというイメージが広がっている。もう一つは、「普通の国」と言ったのは小沢さんだが、例えば分権とか規制緩和だとか、今で言う構造改革の問題を政治家の中でもっとも早く提起された方だと。それで小沢さんの政策にはブレがなく、切れ昧があると。
 しかし、小泉自民党はかなり取り入れ、実際に行った。だから政策論争では必ずしも恐れる必要はない。ただ、「格差が生じた」とか、「地方が少し疲弊しているのでは」という議論に対して、どう応酬をしていくかだ。
 清宮 次の総裁が決めることだが、その政策と選挙を戟う体制はどうか。各地方の選挙区をみた場合、郵政民営化に反対する人をみんな切って捨てたまま、本当に来年選挙ができるのか。その辺は−。
 谷垣 やっぱり割れていると、よほど勢いがある時でないとなかなか勝てない。これからの改革というものを本当に一緒にできるならば、どっかで手を組む必要があるのではないか、と思っている。
 清宮 今の政治はどうみても人気に引きずられている。「大衆向けのパフォーマンス劇場型政治」、私はそう言っているのだが、これをそのまま続けていいのだろうか。
 谷垣 これが一番難しい問題だ。選挙は勝たねばいけないし、どういうコミュニケーションをとって、有権者の気持ちをつかんでいくかだ。多少選挙に不利になっても、長期的にみたら必要なことはやっぱり言っていかなくてはいけない。
 郵政ワンポイント・イシューで選挙には勝った。税制・財政改革ワンポイント・イシューで選挙に勝てる時が来るのだろうか、というのが最大の悩みで、テーマでもある。
 清宮 谷垣大臣が、消費税の引き上げ問題をいち早く提唱された。また、法案をいつ提出するかまで触れられた。そこで、財政の責任者として泥を被ってもいいという姿勢を評価する声がかなりあり、私もそう思う。この点について決意とかを伺えればと。
 谷垣 今、歳出歳入一体改革で、どれだけ歳出を抑制できるか、党といっしょにやっている。80兆円を少し切った今年の一般会計予算の4割弱は借金に頼っているが、それを全部歳出カットでやるわけにはいかず、どこかで税をお願いしなければならない時が必ず来る。これはそんなに先送りできない。
 いろいろな景気変動その他にも一番影響が少なく安定的な財源となると、やっぱり消費税が一番適切であると、多くの方がそう考えるので、私はこの問題をしっかりと提起していく。そしてきちっと実現していかなくてはいけない、と強く思っている。
 清宮 今、日本経済は体質強化によって、よくなってきているのだろうが、その見通しはどうか。
 谷垣 バブル後のいろんな問題の処理が終わり、好調な企業業績が雇用、家計、消費に回ってくるかたちか基本的にできており、(見通しは)底固い。しばらく前、福井(俊彦・日銀総裁)さんにお会いしたら、日本の潜在成長率は1.5%を超えたと思うとか、また(そのほかの人では)2%ぐらいとか、いろんな議論があるが、これを上げていく。そして最後は、科学技術と教育となっていくのではないか。
 清宮 今いろいろと問題にされている「格差社会」。どういうふうに是正し、どう持っていくべきか。
 谷垣 自民党は「均衡ある国土の発展」という言葉が非常に好きだ。「今、必要なところに金を流せるようにしよう」というのが構造改革だとすると、今まで非常に手厚くされていたところに十分には回らなくて、別なところに回っていく、ということは当然おこり得ることで、今までの秩序からみると、ある意味で格差が出てくる。
  また、自由な社会では、成功する人と必ずしもうまくいかない人が出てくるというのは、やむを得ないことだ。ただ、自由な中で、格差が固定するというのが一番問題だろうと思う。
  格差がはっきりと分かるような数字は必ずしもなくて、むしろ、格差があるという意識が非常に強いのだと思う。この意識がどこから出てくるのかが問題だ。勝ち組・負け組という二項対立で物事を考えるような風潮が出てきている。だからこそ、「みんなでやろうぜ」ができてこないとうまくいかない、というわけだ。
 もうーつの格差に、「地域格差」がある。地域を支援するためにお金をジャブジャブ流せる時代ではない。地域を担っていく人材を各地域でどう養成していくか、また、自分たちのいいところは何なのだということを発見し、それをうまく活かした産業などをつくっていくことが必要だ。
 清宮 在日米軍の移転について、3兆円という数字が出てきた。米国の国防長官までが、日本の防衛費は国民総生産の1%以内という枠があるはずだが果たして大丈夫なのかと、アメリカの方が心配してくれている。どう理解したらいいか。
 谷垣 今の日本は中期防という形で大体枠組みをつくっているから、GDPの1%という枠はない。アメリカの国防長官(の発言は、「日本は1%しか防衛費に使っていなく、もっと負担したらどうか」という意味ではないだろうか。また、米軍の再編は日米安保の抑止力の向上にもつながることなので、必要な費用も精査して透明な議論をし、国民への説明責任をきちっと果たしていきたい。
 清宮 国会があっという間に終わり、大事な案件がそのままになってしまった。次をにらんでいる大臣としては、どうみておられるか。
 谷垣 「教育基本法」と、それから憲法そのものではなく「憲法改正の手続き法」だが、非常に重く大事な法案だ。どっちも必ず通していかなくてはと思っている。
 教育基本法の関連での話だが−。明治の初め、ベストセラー本のーつに福沢諭吉の『学問のすすめ』があるが、もうーつに、志賀重昴の『日本風景論』がある。
 最初のところに「紅山誠に美なる。これわが郷なり」と書いてある。明治になって近代国家の求心力をどこに求めたらいいか、という議論の中で、「自分たちの国は四季折々誠に美しい素晴らしい国だ」というところに、愛国心というか、郷土愛というか、国づくりのーつのポイントを置いたことは、大変意味があることと思っている。
 清宮 小泉さんは派閥がすべての悪だと決め付けていたが、自民党のような大きな所帯をーつにまとめるのは共産国家のような独裁国家でない限り難しい。政策集団としての派閥は必要と思うが、どう思われるか。
 谷垣 自民党の体質の中に、「派閥あって党なし」みたいなところがあった時もあり、その面が指弾されるのはやむを得ない。しかし、選挙で当選してそれなりの権力基盤を持っているとはいえ、個々の政治家が党内で相当勇気ある発言をしていく時に、自由な議論をする、そして仲間が守ってくれるという、一つの足場になっていた面ははっきりあった。それの全否定は政治の活力にとって本当に意味のあることか、プラスの面も見過ごさずに、よく考えなければいけない。

耳を傾け、よく考え、全力を尽くす 20人の推薦人確保大体いけそう

 清宮 噂されている立候補候補者の中で、派閥の領袖は、実は谷垣さんだけだ。総裁候補は国会議員20人の推薦が必要だが、谷垣派はその人数を満たしていないのが大きなーつの壁だが、その自信と見通しは−。
 谷垣 私を含めて15人の所帯だが、団結は強い。その仲間が一生懸命やってくれており、また、長い間のいろいろな付き合いもあり、大体いけそうな感じはしているが、ギリギリになるまで(推薦人確保に)相当苦労しなければいけない、と思っている。
 とにかく今は、歳出歳入一体改革など私の公務に全力を挙げて取り組み、ある程度整理ができた時には、大勢の方々の声に耳を傾け、そしてよく考えて、なるほどと思ったら自分の全力を尽くそうと−こう思っている。
 清宮 今のは1回目の決意表明だと−。どうもありがとうございました。

(週刊「世界と日本」1722号。講演録はじゅん刊「世界と日本」1072号に掲載) 戻る