景気回復 腰は弱くない
 日本経済の現状と課題
             財務大臣 谷垣 禎一

 内外ニュース東京懇談会8月例会は、30日、東京・キャピトル東急ホテルで行われ、財務大臣の谷垣禎一氏が「日本経済の現状と課題」と題して講演した。この中で谷垣氏は「景気の回復は構造改革の成果であり、決して腰の弱いものではない」と述べ、「今後3年間は選挙のことを考えずに仕事がやれる時期だ」と強調した。また「社会保障は国民経済の身の丈にあった給付と負担が必要だ。制度を支える意識革命が必要で、財源としては消費税も視野に入れる」と語った。       (講演要旨は次の通り)

 参議院選挙が7月に終わった。政治は何が起こるか分からないので予測は難しいが、参議院選挙が今後3年間はないことは確実だ。衆議院選挙は昨年11月にあったから、常識的に言えば、しばらくはない。統一地方選挙も昨年行われた。だから、これからの3年間は(選挙が)ない可能性がある。戦後政治史においても希有なこの時期に、どんな政策を打ち出し、何をやるかは日本政治にとって極めて大事なことだ。
 わが国が直面しているマクロの政策課題は、@景気回復A21世紀に持続可能な財政制度の確立B安心して安全に暮らせる国を作ることの3つだ。
 そのうちの@Aについて述べたい。
 まず第1の景気回復だが、現在の日本経済は堅実に回復している。この景気回復は決して腰の弱いものではない。今回の景気回復は構造改革による民間主導を目指した結果だ。バブルのマイナス遺産である不良債権処理は、この1年半の間で9兆円以上減少した。バブルの時代のマイナスの遺産から、ようやく脱却しつつあるということだ。
 ただし、大企業に比べると中小企業の回復はまだまだである。地域差は大きくなっている。全国的に見れば、まだら模様ということだろうか。日銀とも緊密に連携してデフレからの脱却を確実なものにしなければならない。
 日本の人口は2006年をピークに継続的な減少局面に入る。その中で家計貯蓄率が低下し、資本不足が心配される。それに対応するためには、技術革新と海外からの直接投資の促進を進めていかなければならない。
 課題は21世紀に持続可能な仕組みをどう作るかである。今年の一般会計予算では、歳出に対する税収の割合は辛うじて5割を上回るという状況だ。約44・6%を国債という借金で賄っている。急激な高齢化に伴なう経費の増大、数度にわたる経済対策などによって歳出規模が拡大した。一方、税収は景気の低迷に加えて、国と地方の恒久的減税などにより、18年前の水準まで落ち込んでいる。
 その結果、公債の発行額が大きく増加している。国の公債残高は16年度末で483兆円になる見通しで、地方も合わせた長期債務残高は719兆円になる見込みだ。こういう赤字財政をつづけていると財政の硬直化が起こってくる。それを通り越すと、財政制度の持続が不可能になる。
 国債に対する信任が低下すると、中長期的に経済成長の阻害要因になりかねない。そうした状況を改善していくのが最大の責務と考え、全力を傾けてきた。成果は少しずつ現れている。17年度においても、従来にも増した予算配分の重点化、効率化を目指したい。
 政府は2010年代初頭に、基礎的財政収支を黒字化することを目標にしている。財政赤字の縮減により財政規律を確立していくことは、持続的な経済成長を作っていくうえで極めて大事であり、また有効である。
 2番目の課題は、21世紀に持続可能な財政を確立するために、年金をはじめとする社会保障制度の改革、国と地方の「三位一体」改革という、2つの制度をどう構築するかである。
 社会保障制度だが、2000年には20歳から64歳までの世代が3・6人で1人の高齢者を支える形になっていた。しかし2025年には1・9人、2050年にはわずか1・4人で1人の高齢者を支えねばならなくなると予想されている。社会保障の給付と負担が増大していくと、わが国経済に大きな負担がかかり、活力に大きな支障が起きる。
 私は3つのポイントがあると思う。まず、社会保障は国民経済の身の丈にあった給付と負担をしていかねばならない。給付の伸びは経済成長に見合う程度に抑制していく必要がある。次に、自助と公助の役割分担を徹底的に見直す。そして、社会保障でカバーされるべき分野を再定義していかねばならない。
 大事なことは、制度を支える意識革命だ。高齢者を一律に弱者として捉えるのは、現状に合わないのではないか。また、子供を産み、育てることの喜びを再認識し、次世代の国民を育てることが生きがいである。そういう考えに共感できる社会にしていくことが必要だ。
 一方、21世紀に持続可能な制度を作るうえで、避けて通れないのが国と地方の関係だ。「三位一体」で進めているが、地方に対する国の関与を縮小していく。意義ある改革を進めていくうえで重要なのは、納税者の視点に立つことである。
  「三位一体」に関連して、国、地方とも所得課税を根本的に見直さねばならない。同時に、先般の年金改革で基礎年金は2分の1まで税を投入する方向で決まった。政府与党の税制改革大綱に書かれているように、平成18年度から先は消費税も視野に入れながら、財源を探すことになっている。
 国内ばかりでなく、世界経済の安定的な発展に貢献することも大事だ。とりわけアジアとの共生を本格的に模索すべき時が来ている。通貨、金融面での協力に加え、モノ、カネに関する貿易、投資面での協力、ヒトの交流サービスを含む経済連携を行っていく。
 日本は聖徳太子以来、「和をもって尊しとなす」を特色としてきたが、社会、経済、政治の変化により、「家庭の絆」「地域社会の絆」「国民と国家の絆」が弱まっている。この伝統的な3つの絆を取り戻し、信頼と活力のある国家を維持・創造していくために、構造改革を推し進めなければならない。

(週刊「世界と日本」1639号。講演録はじゅん刊「世界と日本」1027号に掲載) 戻る