中国の発展とこれからのビジネス
サントリー会長兼社長 佐治信忠
内外ニュース東京懇談会3月例会は、19日、東京・赤坂プリンスホテルで行われ、サントリー会長兼社長の佐治信忠氏が「中国の発展とこれからのビジネス」と題して講演した。佐治氏は、新時代への息吹・パワーあふれる中国での事業成否のカギは、「相互理解・信頼にもとづく、中国社会とのコミュニケーション」「現地人材の登用・活用」にあると述べた。そして、これからの日本はGNPへの関心を、GNE(グロス・ナショナル・エンジョイメント=楽しみ)に向けるべきと結んだ。(講演要旨は次の通り)
清宮社長とは、父の佐治敬三が「自由社会研究会」以来親しくお付き合いいただき、そのこ縁で私も日頃大変お世話になっている。
先月、上海へ行ってきたが、上海はまさに日進月歩、行くたびに変貌・発展がめざましい。中国経済は大変元気で、9%超の実質成長を維持し、世界経済を牽引するエンジンとなっている。消費市場は3〜4億人の規模だが、巨大人口を背景に 「世界の工場」という面だけでなく、家電、携帯電話、自勣車はじめ、世界トップクラスの消費市場規模で、ビール消費量も世界2位である。
30〜40歳代の若い人の各界での活躍が目立つ。若さあふれるパワーを発揮し、行政やマスコミ界での大きな影響力に驚いた。中国人の友人は「頭の固い社会主義的リーダーが、資本主義市場経済の運営に苦心しているのが日本だとすれば、中国はエネルギッシュな資本主義的リーダーが、社会主義経済を柔軟に引っ張っている」と言う。
サントリーと中国とは、33年前、日中国交回復の直前の1971年に、関西財界がミッションを派遣、佐治敬三がメンバーとして訪中以来の縁である。中固要人とのお付き合いを背景に、84年には中固にとって初めてのビール合弁事業を、江蘇省違雲港市でスタートできた。出資比率が50対50で、商売感覚のない役人が50%の資本を持っており、大変苦労した。
当初は言葉だけてなく日中双方の考え方や習慣の違いに戸惑い、事業を軌道に乗せることができなかったが、現地に住み、中国語や中国流の暮らし方を肌で学ぶことで、現地に溶け込み、相互理解を深めていった。
10年間にわたる苦い経験が、95年の上海への進出に役立った。サントリーを表す漢字の「三得利ビール」というブフンド名もよかった。大変な好評を博し、発売4年目の99年には上海市場で約30%のシェア、池Iの座を占めることができた。将来の中固ビジネスを1000億円規模にしたい。
上海で「三得利ビール」成功の主な要因だがー
@第一に、味。思い切って中国人の舌・好みに合ったライトタイプの爽やかな味を開発できた。
A品質管理。連雲港市での10年間で培ったノウハウが役に立った。
B営業面では、中小の卸業者とも直接取り引きし、顧客と接する小売店までケアする、キメ細かい営業活動を展開した。
CTVや街角の広告看板、飛行船を使った宣伝など、サントリー得意の斬新なマーケティング活動が効果を発揮した。
D生産から営業、マネジメント層まで、現地の中囚人の人材を積極的に活用した。上海では、ビールと同じ95年から、現地企業と合弁で清涼飲料事業にも借手。サントリーの「PETボトル入りウーロン茶」が新しい流行ともなった。発展著しいエリアごとに、それぞれに適した商品・商売を工夫し、ビジネスを拡大したい。
戦後成長を導いた日本人のように、中国人の仕事に対する強い意欲と熱意、自己研鎖にも目を輝かして熱心に取り組む姿勢に、中国経済の新しい時代への大きな変化の息吹・パワーを実感した。幹部には現地中国人を登用。また、市政府とのコミュニケーションも大切。情報を素早くキャッチし、工場運営をなんとか乗り切ることができた。
以上、中国でのビジネスの成否を決める最大のカギは「相互理解・信頼にもとづく中国社会とのコミュニケーション」と、「現地人材の登用・活用」にあると思う。
21世紀は、日本・中国を合む東アジアがもっとも活力ある経済圏になっていくが、WTO加盟後「世界の工場」化を加速する中国に脅威を覚え、警戒を強める論調が日本で多々見られるが、短絡的・近視眼的な考え方だ。
「中国に進出した企業のほとんどは儲かっていない」とよく耳にするが、日中投資促進機構のアンケートでは、進出の日本企業300社のうち、83%が経常黒字だ。中国がどう変わろうとも、日本の産業がグローバル化の荒波の中で生き残るためには、高コスト構造を革新、より付加価値の高い産業へと構造改革を進めなければならない。
日本には、人生の喜び、楽しみといった側面を重視する国になって欲しいと思う。これからの社会では、経済学者のガルブレイス氏が提案される「GNE」のように、GNP(GDP)だけでは測れない価値を新しく創造していくことが大切だ。日本の生活文化・ライフスタイルの魅力をアジアひいては世界に向けて、自信を持って発信・紹介していくことだ。
中国、世界との関係の発展には、広い意味での文化交流が欠かせないと、サントリー美術館、サントリー文化財団などを通して、学術・芸術の分野での交流や支援活動を進めている。また、観光も大切。日本の魅力をアピールして、多くの観光客を迎えることが、各地域の活性化にも資する。
中国の古い言葉に「和して同ぜず」とあるが、日本と中国が互いに異なる個性・長所を尊重しながら緊密に連携・協力していくならば、両国が一層の成長を遂げ、グローバル化時代(=21世紀)のアジアと世界の発展に、大きな役割を果たせるものと信じている。
(週刊「世界と日本」1519号。講演録はじゅん刊「世界と日本」1016号に掲載) 戻る |