デフレ克服が最大の急務
 小泉改革と今後の課題
                前内閣官房長官 中川秀直


 内外ニュース東京懇談会9月例会は4日、東京・キャピトル東急ホテルで行われ、前官房長官の中川秀直氏が「小泉改革と今後の課題」と題して講演した。この中で中川氏は「小泉首相は、9月20日ごろをメドに今後の内閣の基本方針をつくれと指示している。私個人としては、まず最初にデフレ対策について一定期限を切って目標を掲げ、動きだすことだと考えている」と述べた。さらに同氏は「長野県知事選挙の結果を過小視してはいけない。都市部や無党派層の自民支持率を増やすためには、小泉改革を貫徹しなければならない」と主張した。
(講演要旨は次の通り)



 小泉首相は大いなる決断をもって9月17日、北朝鮮との首脳会談に臨むが、まさに今、日朝両国首脳が真摯に決断して、国交正常化に真剣に取り組むべき一番の好機である。この際、東アジアの平和と日本の安全保障のため、そして人道問題、拉致問題を解決するためにも、一定の決断をもってできるだけ早期に打開し、できうべくば、解決をつけることが大事だと考える。
 国民の多くは、期待はするが現実はなかなか難しいとの見方だろう。しかし、拉致問題の解決なしに日本国民の合意は絶対に得られないということを、北側も十二分に分かっている。彼らの最大関心事項(過去の清算問題)での決断が行われれば、即行動に移す。そういうことは十分視野に入れることができる。その大きなスタートが9月17日ととらえ、全力を尽くすべきだ。
 外交問題では、なんといっても日米関係が非常に重要だ。第一点は、世界の総生産の4割を占める両国が経済政策においても緊密な連携をしていくことだ。第二点は安全保障、外交関係で双方の共通利益の上に立ったさまざまな取り組みをしていくべきである。
 安全保障の問題だが、政治家は官僚の漸進主義を超えて、新たな可能性を大胆に模索していくべきだと考えている。テロという新しい戦争に対する″ぜい弱性″は、アジア地域にはたくさんある。そのために、アメリカは米比合同軍事演習という形でフィリピンで行った。これからの日米同盟関係の中では、地域的な広がりを持って今後の展開を考えていくべきではないか。
 沖縄は米軍基地受け入れの大きな負担を負っている。テロという新しい戦争の時代の中で、東南アジア全体のセキュリティシェアリングというもので、この問題を解決する方向は探れないのか。地域的な安全保障上のシェアリングをASEAN諸国の首脳や米国とも、真剣に協議していくべきだ。もちろん日本の自衛隊には憲法上の制約がある。他方、ブッシュ政権の戦略的発想とは矛盾しないはずだと私は考えている。
 昨年10月、米国防総省が発表した国防政策見直し「QDR2001」の中に、米軍基地がヨーロツパと北東アジアに集中している現状は不適切、という認識が示されている。沖縄の基地の大きな部分を占めている海兵隊の訓練基地等々は、東南アジアなどへの分散対象に十分なりうるのではないか。日米両国の政治リーダーがアジア諸国のリーダーとも対話しながら、そうした新しいビジョンを描いでいくべきではないか。
 国内経済だが、東京株式市場は19年ぶりに、バブル崩壊後の最安値をつけた。株は経済の先行指標であるから、最安値になったことを反省し、対応をしなければいけない。小泉内閣の″一丁目一番地″である不良債権処理についても、大きな対応をとっていく体力はついているのではないか。小泉首相からは「9月20日ごろをメドに今後の基本方針をつくれ」といわれている。私はその最初の項目は、デフレに対する対応について一定の期限を区切って目標を掲げ、それに向けて動きだすことだと考えている。
 具体的には、自己資本の低下に対する金融機関への公的資金注入という議論もあった。不良債権の最終処理の段階をもっと強化すべきだとか、競売市場で未成立になった案件を何らかの機構で一時引き取る。また、RCC(整理回収機構)を強化して、そこに公的資金を注入し(不良債権を時価で買い取る。ともかく、そこまで思い切ってやらねばならない時期にきたのではないか。いずれにしても、金融不安を断つ政策が急務であり、マーケットは明らかに真の改革を迫っている。
 自民党総裁の任期は来年の9月だが、衆議院の任期は再来年の6月までだ。残る任期は2年弱。小泉首相は、目標、期限を切った国民との契約といったものをつくるべきだと思っている。最大の問題はデフレの克服である。そして、小さくて持続可能な政府、「国から地方へ」「官から民へ」「民間でできることは民間へ」。そうした政策面での構造改革の旗を強く振って、国民に訴えていくべきではないか。
 先日行われた長野県知事選の結果を、決して過小視すべきでないと思っている。調査によれば自民党支持層の61・2%が田中さんを支持した。公共事業や補助金中心の誘導型政治が、民意から「ノー」という答えを出されたといっても言い過ぎではない。ある意味ではそういう形での自民党は半分壊れ始めている。小泉政権ができた最大の理由は、都市住民を中心とした圧倒的な支持があったことは確かだ。この小泉改革を貫徹しながら、新しい政治を始めていかねばならない時期に来ている。
 民主党の代表選挙が9月23已にある。民主党国会議員の7割は当選I〜3回の若手の人々だ。その人たちは都市部で、自民党離れをした無党派層をつかんで当選してきた。彼らは小泉改革の主張と同じようなことを言っている。
 我田引水かもしれないが、民主党若手の人たちが、小泉さん、そして自民党と政策で連携し、一緒になって政治的な役割を果たしていくことは、むしろ歴史的な役割にかなうことだ。
 小沢(一郎・自由党党首)さんが野党結集の“薩長連合”を唱えているが、こちらの方が、真の“薩長連合”ではないだろうか。

(週刊「世界と日本」1549号。講演録はじゅん刊「世界と日本」に掲載) 戻る