勇気と知恵で解決図ろう
 最近の中国情勢と日中関係
             元外務大臣 高村正彦

 内外ニュース東京懇談会6月例会は20日、東京・全日空ホテルで行われ、元外務大臣の高村正彦氏が「最近の中国情勢と日中関係」と題して講演した。高村氏は「中国が、小泉首相の靖国神社参拝を、戦争美化とか軍事大国化の象徴だとしているのは誤解である。しかし、この誤解を解くのはなかなか大変だ」と述べた。また「国立の追悼施設建設は最良の解決策とは思わない。靖国問題は日中両国の国民感情の相違だから、お互いに知恵と勇気を出さなければならない」と語った。    (講演要旨は次の通り)


 今、日本、中国、韓国、ASEAN諸国が、「東アジア共同体」を言いたしている。まだ夢の段階と言っていいが、かつて夢であったヨーロッパ共同体がどんどん現実のものになっている。そういう中で、アジアに地域共同体というものがあってもおかしくないし、そういう夢を見ることはいいことだ。実現できる可能性は十分あると思う。
 ただ、東アジアの2つの強国、日本と中国が協力しなければ(東アジア共同体は)できない。両方が足を引っ張り合っていたら、夢のまた夢に終わってしまう。
 中国は高速鉄道で日本を採用しない。ITER (国際熱融合炉施設)でフランス側につく。過去の歴史問題が理由だと、中国政府の要人は言わないけれども、実際に携わっている人は、それが問題だと平気で言う。国連常任理事国入りの問順になったら、(中国)政府自身が歴史問題を正式の理由として言いだすことをはばからない。非常に残念な状況にある。
 私は昨年2月、日中友好議員連盟の会長になった。日中友好は日本にとっても、中国、アジア、世界全体にとっても絶対に必要なことだと思っている。日中友好とは、対等な主権国家同士の安定した関係を築くことだ。その安定した関係ができているか、今後もそれが続くかというと、心配なことだらけだ。
 日本と中国の間には国民感情のギャップがある。過去の歴史について、日本人の感情からすれば、もう謝ったではないか、いつまで謝ればいいんだと。だが中国の人からすれば、まだまだ謝り方は十分でない。加害者は忘れたって、被害者は忘れないんだよと。
 私が外務大臣時代の1998年、江沢民主席が国賓として来日した。マスコミ的に言えば、日中共同宣言の中に、過去のお詫びを入れるか入れないかが、大変注目された。韓国とは国交正常化の際に、お詫びの言葉が入っていないので、日本側ははじめて文書で謝ろう、しかし中国とは、国交正常化の共同声明の中に「多大の損害を与えた。反省する」との言葉が入っているから、入れないことにした。
 ところが中国に大洪水が起こり、江沢民主席の来日が、金大中大統領の後になってしまった。韓国にお詫びの言葉を入れるとはっきりした時点で、中国側も(お詫びを)入れろという要求が強くなった。
 江沢民主席はその結末に大変不満であったことは事実だ。宮中晩さん会で、天皇・皇后両陛下の前で、過去について糾弾するようなことを言った。日本全国でも講演したので、日本国民は憤激し、世論は一致して反撃した。中国側はかなりびっくりした。その時、中国は歴史はカードにならないと悟ったと思う。そうでないとの意見の人もかなり多いが・・・。
  靖国神社の問題は、小 泉さんが勝った総裁選挙の時、「どんなに反対があっても8月15日に靖国に参拝する」と言ったから、大きくなった。今まで中国に気兼ねしてはっきりものが言えない政治家に比べ、なんと素晴らしいと多くの自民党員が考えたから、圧倒的に票が集まった。
 なぜ小泉さんが8月15日を避け、8月13日に行ったのか。やはり公約とすべきでない公約だったと、自身が認めたからだろう。靖国参拝問題はもともと日日問題でもあるし、日中問題でもある。
 日本国民の大多数は、国の代表者が靖国神社にお参りするのは当然だと思っている。それに対して、政教分離とか、靖国神社は軍国主義の象徴だとか考えている方もいる。日日問題というのは存在している。
 中国の大部分の人は、靖国神社に首相が行くのは嫌だと思っているだろう。それを声高に言った方がいいという人と、日中問題は大切だから、あまり声高に言うのはやめよう、という人が中国の中にもいる。だから中中問題でもあるわけだ。
 数ヵ月前に、王毅中国大使が自民党外交関係部会で「日本と中国の間には、総理、外務大臣、官房長官の3人は靖国神社に参拝しない、という紳士協定がある」と話された。中曽根元首相と外務省は「そんな紳士協定は存在しない」と。私の理解するところ、協定が締結された事実はないと思うが、両国間では、あうんの呼吸で「暗黙の了解」の状況になっていたと思う。
 中国側に言わせると、中国は国交正常化の時に、悪かったのは戦争指導者、軍国主義者で、日本国民も共通の被害者だ。だから賠償を取るのもやめようと、中国国内を納得させた。A級戦犯が合祀されている靖国神社に、国の代表者である総理大臣が参拝するのは、中国国民を説得できないと。
 靖国神社参拝は軍事大国化の象徴だと取るのははっきり言って誤解だが、その誤解を解くのは大変なことだ。山ア拓さんが行った時だか、中国 側の方が「知恵と勇気を出して解決しましょう」と。どういう知恵を出すのか。例えば、靖国神社がA級戦犯が祀られていないような状態にする知恵が出るのか、出ないのか。
 小泉さんは、以前の予算委員会では「参拝の仕方について外国から干渉されるべきではない」。 「いつ行くかは適切に判断する」。そして「“罪を憎んで人を憎まず”というのは中国の孔子の言葉だ」。この3つを言ったために、呉儀副首相がドタキャンして帰国した。
 そして小泉さんは直近の予算委員会で、「A級戦犯のために行っているのではない」と言われた。なぜ、もっと早く言つてもらえなかったのか。
 今一つの知恵として、無宗教の国立追悼施設の話が出ているが、私個人の感情からすれば、やはり靖国神社が国民の追悼施設の中心であったほうがよい。そうあり続けるためには、靖国神社として何とか知恵を出してもらえないか。国立追悼施設は最良の解決策ではないと思う。
 日本の外交は、ここ60年間で最も悪い状態だ。これを何とか直して行かなければならない。

(週刊「世界と日本」1676号。) 戻る