多国籍軍参加、当然の措置
 日本の外交−イラク問題等について
              
                    衆議院議員・外務大臣 高村 正彦

 内外ニュース東京懇談会6月例会は14日、キャピトル東急ホテルで行われ、元外務大臣の高村正彦氏が「日本の外交−−イラク問題等について−−」と題し講演した。高村氏は自衛隊の多国籍軍参加について「国連の新決議とイラク暫定政府側の要望による、法技術的な問題である。指揮権などこれまでと変わりはない」と強調した。また小泉首相の北朝鮮訪問については、「1回目の訪問は95点と評価するが、再訪時の食糧、医療支援は均衡を失している」と批判した。
(講演要旨は次の通り)


 イラクは6月30日に暫定政府に主権が委譲される。受け皿になる暫定政府はすでに成立した。それを国際社会が支えていこうという国連新決議も成立した。暫定政府の陣容や国連決議は妥協の産物だから、みなそれぞれに不満を持ちながらも、まずはめでたしと言えるだろう。本当にめでたし、めでたしと言えるような政治プロセスをこれからやっていかねばならない。
 もし、イラクが安定に失敗して破綻国家になれば、かつてのアフガニスタンのようにテロリストの聖域になるだろう。
 小泉総理が「多国籍軍に参加する」と言ったことが物議を呼んでいる。多国籍軍に参加するといっても、自衛隊はこれまでどおり日本政府の指揮のもとで動く。多国籍軍に入るのは、法的、技術的な理由があるからだ。
 日本のイラク派遣隊は、国連の既存の決議の要請によって行っている。行く国の同意を取らなくてはいけないのだが、イラクの政府というのがないから、占領行政当局 (CPA)の許可のもとに派遣されている。ところが6月30日でCPAはなくなり暫定政府ができる。ただ、暫定政府自身が「自分たちは選挙管理内閣のようなものだから、個々の国と地位協定を結ぶことはできない。国連で一括してやってほしい」と要望した。
 新しい国連決議の中には「統一された司令部のもとにある多国籍軍については、今までCPAと
結んだ権限をそのまま引き継ぐ」とある。ところが日本はこれまで多国籍軍に入っていなかった。多国籍軍に入らないとなると、イラク暫定政府と(地位協定の話を)やらなければならないが、暫定政府はできないという。
 これをクリアするために、日本は多国籍軍に入ると言わざるを得ない。これは法技術的な問題な
のだ。ただちに治安活動をやるとか、多国籍軍司令部の指揮下に直接入るというわけではない。そういうことをご理解いただきたい。
 私は総理特使として中東に数度行った。最初は米英のイラク攻撃が始まる前で、エジプトとサウジアラビアだった。
 サウジアラビアの要人が「安保理が分裂して、サダム・フセインに間違ったメッセージを送っているのは非常に残念だ」と語ったのにはびっくりした。フランスやドイツ、ロシアが(イラク攻撃に)反対だと言っているのは、サダム・フセインに、ひょっとしたら戦争は起こらないかもしれない、というメッセージを送っていることだと。
 サウジアラビアのアブドラ皇太子が「日本で間接統治が成功したのは、皇室が中心にあったからだ。イラクのどこに中心があるのだ。イラクではまったく成功する可能性はない」と言っていたの
が記憶に残っている。
 日本の自衛隊派遣の前に、やはりエジプトとサウジに行った。エジプトのムバラク大統領は「人道支援に絞るのがいい」と言われた。サウジのアブドラ皇太子は「人道復興支援をやってくれると、イラクの人たちも喜ぶだろう」とのことだった。
 6月30日の権限委譲を控えて、最近、イランとサウジに行った。(イラクの暫定政権について)サウジは「シーア派とかスンニ派とかにとらわれない政府をつくることが大切だ」と言っていた。しかし、イランは、「イラクではシーア派が多数派であることを評価したうえで、暫定政府の陣容を決めてほしい」ということだった。結果としてできたのは、シーア派の首相とスンニ派の大統領なので、イランもサウジも、まあまあだと思っているのではないか。
 北朝鮮については、日本は国交正常化ができていない唯一の国だから、国交正常化は望ましい。日本は韓国との正常化の際、過去の清算としてかなりのお金が動いた。北朝鮮側はそれを渇望している。日本は、それによって北の経済が立て直せるかもしれないと期待している。私は外務大臣時代に「拉致問題の解決なくして国交正常化なし、国交正常化なくして経済協力なし」と言った。
 ただ、拉致問題が解決しても、日本からいったお金で核やミサイルを開発されては、漫画のような話になる。だから「安全保障問題の解決なくして国交正常化なし、国交正常化なくして経済協力なし」ということなのだ。
 人道支援としてのコメ支援だが、私が外務大臣の終わりの頃、事務方が10万トンを出させてくれといってきたが、拉致を認めないのにコメ支援するのは国民が認めないだろうと、出させなかった。私がやめてから10万トンさらに50万トンを支援した。50万トンとなると単なる人道支援の枠を超えて、大規模経済協力と混同される恐れがある。私は反対だから、最後の決定会議は欠席した。日本の方針はグラグラしている。
 小泉総理の訪朝は、1回目は95点と高く評価している。マイナス5点は、平壌宣言の中に気に食わないところがあるからだ。2回目の訪朝についてはあまり高い点は差し上げられない。失敗だったと烙印は押さないが、25万トンの食糧支援、1000万ドルの医療支援というカードを持っていたのならば、もう少し具体的なものが引き出せたのではないか。これは黒三角(▲)である。
 日本政府は(北朝鮮の)核、ミサイル、大量破壊兵器などの問題にこだわってもらいたい。小泉政権の間に何が何でも日朝国交正常化をするのだと、タイムリミットに駆り立てられると外交力は弱くなると、私は思っている。

(週刊「世界と日本」1630号。講演録はじゅん刊「世界と日本」1023号に掲載) 戻る