日本経済の課題と新事業創造
経済同友会代表幹事
日本アイ・ビー・エム会長 北城 恪太郎
内外ニュース東京懇談会5月例会は31日、東京全日空ホテルで行われ、経済同友会代表幹事の北城恪太郎氏が「日本経済の課題と新事業創造」と題し講演した。北城氏は、日本経済の長期的発展のためには、事業の競争力を高めることが必要として、6つの視点から語った。新事業創造では、3つの問題点に触れ、重要なことはリスクを取って挑戦する人がたくさん出やすい環境をつくることだと述べた。また、日本経済はバブルの清算も進み、次の10年の施策を打つ時期がきていると結んだ。 (講演要旨は次の通り)
大学卒業後、ソフトウエアのエンジニアということで、日本IBMに入社した。海外留学から帰国したら、営業現場の責任者として登用された。担当は銀行だったが、IBMの、海外のお客様への対応や仕組みでは、日本のお客さまのニーズには応えられないと思った。
社内でいろいろ提案したが他部門からは賛同を得られず、椎名(武雄)社長に10回以上も直訴した。振り返ってみると、それは私がエリートではなく、余計なことを考えなかったからできた事だと思う。ある決まったエりートだけではない、みんなが努力する仕組みの方がいいと、その時、感じた。
いま日本経済は大変好調。アメリカを含めた海外市場が堅調で、特に中国への輸出は昨年より44%増だ。また、中国市場での事業もいい結果を出している。現地で「中国経済はいま過熱気味では」という話をすると、「日本のバブルは十分研究しているし、共産主義であるが故に、政府が個別産業に介入して指導が出来るから大丈夫」との意見が多かった。
一般の人たちは、3つのことが大事だと。1番目は、13億の民がいるから「政治の安定、国の安定」。2番目は「経済が豊かになり、国民がそれを感じる」こと。3番目は 「いろんな発言をする時に、ある程度の自由度が欲しい」と。つまり、政治体制での諸問題は4番目で、とりあえず後回しだ、という考えだ。
日本を取り巻く環境は、短期的にはあまり心配していないが、長期にわたり日本経済が持続・発展していくためには、いま、われわれは何をしなければならないか。
まずは、「国の競争力」を高めること。スイスのIMD調査では、日本はかつてトップグループだったが、いまは第9位だ。会社を新たに創業する「起業家精神」にあふれるような経営をしているか、という点で日本は評価が低い。微か30カ国中、30位だ。
OECD報告によると、日本の1人当たり 「労働生産性」は加盟30カ国中で19位。製造業はかなり高いが他の分野が低い。例えば、2位のアメリカの労働生産性を100とすると、日本の第1次産業は11、第2次産業(製造業)は93。そして雇用の約6割を占め、伸びて欲しい第3次産業(サービス業)は、61という競争力だ。
事業の競争力を高めるためには何が必要か。
まず第1は、CS(カスタマー・サティスファクション)の向上で「お客様に満足して頂く」ことを経営の原理にしている。営業、エンジニアがお客様の業務に貢献しようという意欲を、いかに持っているかどうかという「人間経営」につきる。
2番目は「魅力、競争力のある製品」をつくる。開発のエンジニアと製造現場の多くの人たちが、一緒に努力する日本の企業文化は強く、大事にしたい。さらに、強い事業に経営資源を移し、弱い分野は縮小、撤退という、資源の「集中と選択」が必要だ。
3番目は「高効率経営」。新しい無駄のない経営を考え、さらにコストをさげる努力も重要だ。
4番目は「スピードの速い経営」。意思決定を早くするため、社長までの階層をいかに減らすかで、同時に権限の委譲も必要だ。ともかく決めて実行し、後で修正する方法で、「朝令暮改はいいことだ」と言い続けている。
5番目は「社員の満足度の向上と人材の育成」。モラルサーベイが必要。人事考課は業績を踏まえた成果主義だが、チームワークよく仕事をすることも評価すべきだ。また、毎年毎年努力する人を処遇する「サラブレッドのいない人材登用」と、女性登用にも力を入れた。
6番目として、最近、CSR(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ=企業の社会的責任)の提言をしている。社会的貢献だけでなく、社会から見て好ましい経営をしなければ、その企業は持続、発展ができない。
新事業の創造や技術革新は、必ずしも既存の会社から出てくるわけではなく、逆に、新技術導入に対し保守的な可能性が強い。それに対しベンチャーは導入しやすく、イノベーションをし易い。
日本の社会は、新事業への理解や、国の施策が不十分と思うが、その原因はどこにあるのか。
1つ目は、ベンチャーに挑戦することはいいことだという「社会の価値観」がない。ベンチャー経営者というと、なんとなく胡散臭い感じで、怪しげだと。アメリカの大学で非常に優秀な学生は、自ら起業家になる。日本でも、そういう価値観をつくることが必要だ。
2つ目は、人と違ったことでも、自分なりの考えで事業を起こすことはいいことだと、「教育」の場で教えなくてはいけない。そのためには、創業して成功した多様な人たちが教育現場に出て行き、学生たちと話をしたりして、ベンチャー精神あふれる子供たちを育てることが肝要だろう。
3つ目は、「創業時の資金」が集まりにくく、「販売先の確保」も難しいということだった。創業時における金融機関の融資は、家などの担保を要求し、創業者のリスクが大きいので、「彼がやるならお金を出してやろう」という仕組みをつくることが重要。一方、社会的に信用があり、経営の経験のある人が社外取締役となり、販売先の紹介、支援をしてあげることだ。
日本での新事業は、第一段階の「種をまくこと」がなかなか進まない。政府も支援策をたくさん打っているが、一番大事なことは、予算をつけることではなく、リスクを取って挑戦する民間人が、たくさん出やすい環境を作ることだ。また失敗した時の痛みを少しでも和らげる方策が、大事ではないだろうか。
日本経済は、過失10年のバブルの清算も進んで、次の10年を展望する施策を打っていく時期に入ってきたのではないか。新事業の創造によって、国や企業の競争力を高めることが重要である。
(週刊「世界と日本」1628号。講演録はじゅん刊「世界と日本」1022号に掲載) 戻る |