政治あれこれ
元内閣官房長官 福田 康夫氏 VS 内外ニュース会長 清宮 龍
内外ニュース東京懇談会4月例会は25日、東京・赤坂プリンスホテルで行われ、元内閣官房長官の福田康夫氏が「政治あれこれ」と題し、当社清宮詣会長との対談形式で講演した。福田氏は、亡父の福田赳夫元首相が発表した「福田ドクトリン」を踏まえ、「中国などの台頭に対応した新しいアジア外交政策を打ち出すべきだ」と語った。小泉首相の靖国参拝問題については、「私的なことだと注釈しているが、当初は説明しないままで、今、説明するのは問題がある。しかし中国から言われてやめるのは、どうかと思う」と述べた。 (講演要旨は次の通り)
中・韓との争い、早期改善が必要
小泉総理の靖国参拝、説明足りぬ
清宮 昨年9月、ご尊父の福田赳夫氏生誕100年記念講演会に、西独のシュミット元首相が東京に来られた。その講演でいちばん印象に残っているのは「日本は世界の中で真の友人かいない」と。このシュミットさんの発言をどう受け取られているか。
福田 私はちょうどその時、解散総選挙で地方遊説に行き、東京にいなかった。話は後で伺ったが、80幾つのシュミットさんがわざわざ車椅子で来てくださり感激した。今の話だが、日本に友人がいないというが、友人はいますよ、たくさん。そんなにご心配なくと言いたいのだが、中国との関係とか、いろんなことでゴタゴタしているところを捉えて、象徴的に言われたと理解している。
私の考え方は、友人はほうぼうにいていい、真の友人をたくさんつくりたいと思う。BBC(英国放送)が昨年暮れから今年はじめにかけて、各国で「どの国が国際社今に役立っているか」と世論調査をした。その結果は日本がいちばん良かった。フランス、アメリカ、イタリアなどよりも評価されている。各国でそういう評価をしてくれていることは本当に大事なことだ。
清宮 その問題に関連して各論に移りたい。今、われわれが懸念している大きな課題は、アジア諸国、特に中国、韓国との関係だ。福田さんは先般、韓国を訪問されて、盧武鉉大統領と会談されたが・・・。
福田 政治家、経済界、学会の方も参加している日韓協力委員会というのが、日本と韓国の両方にあり、お互い集まっていろいろな議論をする場がある。もともと岸元首相が最初にはじめられ、父が長く会長をしており、今は中曽根元首相に会長をお願いしている。この間、その会合に行った。
盧武鉉大統領は、最初に日本と仲良くしなければいけないという趣旨のことを言われたので、そういう基本的なお考えはおありなのだなと思った。ただ、そこは議論する場ではないので、表面的なことに終わった。
私は韓国、中国両国と争って、いいことは何もないと思う。ですからお互い協力し合い、お互いに成長していく形がいちばん望ましい。ただ1点でちょっとトラブっていることはあるが、これは一時期の問題だと考えるべきではないか。いずれにしても、いちばん近い国々とうまくいかないというのは、精神的にも物質的にも良くないと思う。
清宮 次に日中関係について・・・。
福田 中国がこれからどういう発展を遂げていくか。これは分からない。中国はよくなるようにと努力しているわけだから、その気持ちをわれわれも理解して、協力できることは協力するということだ。近くの国で混乱があるのは好ましいことではない。それが正しい方向にいってくれることを、われわれとしても望まなければいけない。
きょう、キッシンジャーさん(元米国務長官)と話をしたが、外国からみていて、日本と中国の関係がおかしくなっているのは、強い印象を持って受け取られている可能性がある。これはゆゆしきことだ。今の状況を早く改善しなければいけない。
清宮 日中、日韓でいちばん障害になっているのは靖国問題だ。これを解決する方法はないものか。靖国神社にA級戦犯が合祀されたのは福田元総理の時代。総理も知らないうちに合祀が実現してしまったという過去の事実がある。新しい国立追悼施設の建設案も浮かんでいるようだが、賢明な解決策はないものか。
福田 靖国はややこしい問題になってしまった。過去の政治家は問題とならないようにずいぶん注意してきた。靖国問題だけでなく歴史問題についても非常に慎重に対応してきた。今、その対応が慎重すぎたのではないかという批判があるわけだ。1900年代には歴史問題で閣僚が3、4人辞めている。しかし、今は少しくらいのことを言っても大臣を辞めるわけではない。
では、そのギャップは何なのかを考えてみなくてはいけない。中国のほうからみれば、なんてそんなに違ってきたのかと思うだろう。その辺のところを説明していく必要がある。理解をしてもらわないとこの問題はずっと解決しないから、そういう説明をしたうえで靖国に行く。そして発言も自由にしていくことが必要なのかなと。
外交は国と国との交渉だと堅苦しく考えるけれども、やっているのは人間だ。相手も人間だから、感情があり考え方もある。それを前提にこちらもものを言わなければいけない。外交は相手の立場を考えながら、説明を十分してあげるという気持ちがないと、うまくいかないと思う。
今回(靖国に総理が)急に行きだした。向こうにとっては理解できないことなので、抵抗しているということではないか。靖国参拝は総理大臣がご自身で「これは私的なことだ」と、あえて注釈しているのだから、そこのところは寛容にみていただかなければいけない。ただ同じ人が何回も(参拝を)繰り返し、当初説明しないで、今説明すると、これはちょっと問題があったのかと。中国のほうから言われてやめたという形はどうかなと思う。この問題は双方でうまくコントロールしていくべきだ。この解決策に名案はない。
代替追悼施設の話だが、そもそも代替施設という言葉自体がおかしい。追悼施設は靖国神社に代わるものではない。追悼施設の発想の原点は、戦争によって亡くなられた方々すべてを対象にしたものをつくらなければいけない。同時に平和を祈念すると、かねがね私は思っていた。今議論されているのとは趣旨が違う。
清宮 東京大空襲で亡くなった人など、一般の戦災で亡くなった人。それに戦争で亡くなった人も含めて大きな慰霊の施設をつくったらどうか、ということなのか。
福田 趣旨はそういうことだ。平和を祈念することが、追悼と同じような意味合いを持つものだと思っている。
清宮 次に東南アジアとの関係だが、福田赳夫元総理がマニラでいわゆる「福田ドクトリン」 (*)を発表された。それによって東南アジアとの関係が改善されたという歴史的事実がある。今、アジア諸国との関係も決して良好とはいい難いが、どう考えるか。(*1977年に表明された@日本は軍事大国とならず東南アジアひいては世界の平和と繁栄に貢献するA東南アジア諸国と 「真の友人として心と心の触れ合う相互信頼関係」を構築するB「対等な協力者としての立場」でASEAを支援する−という外交3原則)
福田 (このドクトリンは)当時、アジアの国々からたいへん評価され、その後の日本のアジア政策の基調となった。ただ、30年前のドクトリンでいつまでもやれるということではない。心と心のかよいあう関係、対等な立場でやっていこうという基礎ができたからには、その上にもう一階、大きな政策としてアピールできるものを足さなければならない。
「ハート・ツー・ハート」が1階であれば、その次の新しい政策は2階、その上に東アジア共同体と3階建て。これからは、そういう総合的な政策を打ち出していくいい時期だと思っている。昔とは状況が変わっている。たとえば中国の台頭とかの問題もあるから、より具体的に、そういう国々にアピールできるような政策を打ち出していく必要がある。
清宮 今の話を伺っていると、将来を見据えた「福田3階建て構想」というのが近いうちにでてくるのではないか。
福田 もうその辺で・・・。
大きな課題、都市と地方の格差
総裁選名乗り、公選一ヵ月前でよい
清宮 これ以上はだめだそうですが、外交の締めくくりとして対米外交について・・・。
福田 やはり日米が外交の基本である。日本は安全保障も米国と協調してやっていく国柄だから、今後も重要な国としての付き合いは続けていくのが日本の道だ。ただ米国がきちんとやってくれるというのが前提だから、日本としても意見を言っていくべきだろう。 ブッシュ大統領はイラクでドロ沼に入ったのではないかという話もある。しかし、中東をあのままほうっておいてよかったかどうかも、合わせ考えなければならない。外交に100点満点はない。ここのところは冷静に、全体を考えて対応していくことが基本だ。
(米軍)再編成に伴う費用について、なぜ日本はそこまで負担しなくてはいけないかという意見もある。しかし、米国も世界の秩序安定のために、とてつもない巨額のお金をかけている。昨年、一昨年は日本円にしてそれぞれ50兆円くらい使っているのではないか。日本は今年の予算は4兆8000億円。米国からみると、日本はちょっと少なすぎるという気持ちを持って当然だと思う。
ODAにしても日本はどんどん削り、今はGDPの0.2%くらいた。米国には2、3年前に抜かれ、今年あたりはフランス、イギリスにも抜かれるかもしれない。日本は国際社会にどれだけの負担をすべきなのか。日本が今までやってきたことと全く同じでいいのか。それが問われている時期だ。
清宮 昨年、日本の国連の安保理常任理事国入りについて、世界のどこも支援してくれなかった・・・。
福田 もともと短期決戦の話ではないのではないか。3年、5年かかるかもしれない。世の中はそんなに甘く考えてはいけないという気持ちで取り組めば、プラスになるだろう。
清宮 近い将来、福田内閣ができた時の課題の一つだと・・・。
福田 時事問題はなしにしましょう。(笑い)
清宮 国内政治だが、民主党・小沢体制をどう判断しているか。
福田 あの体制ができ、すぐ選挙(千葉補選)があった段階だから、今、将来を占うことは難しい。実力者がでてこられたのだかち、われわれも真剣に対応していくということ以外にない。
清宮 自民党総裁公選のやり方はどう思うか。
福田 総裁公選も回を重ねてきているので、今のやり方もいいのではないか。しょせん自民党の中のことだから、政策は大体同じ方向だ。ほかの国の大統領選挙のような大騒ぎをする必要はない。それから人気投票というか、人気だけでやるのは、いいのかどうか。
清宮 今の政治状況で 懸念しているのは、小泉総理が本会議場に人ると自民党席から大きな拍手が起きる。施政方針演説では、ここにきたら拍手をしろ、最後は立ち上がって喝采しろとか。かつての大政翼賛会のようになってしまわないだろうか・・・。
福田 衆議院だけならば圧倒的多数、与党だけで3分の2を占めている。しかし、参議院はギリギリのところでやっているのだから、大政翼賛会とは縁の遠いことだ。拍手がないと、演説する人はやっぱり寂しいですよ。私が議員1年生だった頃、最初に2つのことを言われた。拍手しろ、それからヤジを飛ばせと。今はヤジは少ないですね。拍手は別に奇異に感じないほうがいいのではないか。ヤジもなかなか難しい。みんなに受けるヤジでなくてはいけない。汚いことばはご法度だ。それをやって落ちた議員もいますからね。
清宮 選挙制度について、緊急に何とかしてもらいたいのは衆院比例区だ。選挙民がノーと言って落としたにもかかわらず、比例で当選する。マドンナ議員も大部分がそうだし、刺客も成り立ってきた・・・。
福田 比例区があるのは、少数政党の少数意見を守れということだ。もし比例をなくせば、直接投票の小選挙区になって2大政党もつくりやすい。その代わり、時として世論の動きでドッと一方に偏ってしまう。本来的にはそうなるべきだろうが、少数政党は絶対反対する。これを変えるのはなかなか難しい。
もう一つ、今、小選挙区は全国を300に分けている。人口40万人で一人の代表を送る格好だ。もし小選挙区だけになると、300人の議員で国会がやっていけるかどうか。委員会もたくさんある、テーマも多い。一人の議員が相当程度の権限を持ち、幅広くやっていかねばならない。
300人でなく400人にしたらどうか。30万人の国民に対して一人の国会議員になり、小粒の議員しかでてこなくなるという批判もある。今の40万人というのはいい単位ではないか。1ヵ所直せばいい話ではないと思う。
清宮 所得格差が広がっていると、問題になっているが・・・。
福田 格差があると言えばある、ないと言えばないということではないか。あえて問題にするとしたら、東京と地方のギャップはものすごい。都市対地方というのは日本の政策としてこれからの大きな課題だ。
また正規雇用者と非正規雇用者の(賃金の)ギャップが固定化しては大変だ、と言われている。だが人口は減る、労働生産力も減る、団塊の世代が一斉に退職する。そういう時代になった時、日本の企業は人を確保しなければいけないというマインドになるのではないか。
清宮 福田さんは総裁候補であることには間違いない。この流れはいつごろからはっきりしてくるのか。
福田 今、総裁候補に 4人しか挙がらないのは寂しい話だ。私の名前が挙がっているがマスコミがつくった一種の虚構だ。今、総裁問題についてメディアが取り上げる時期ではない。過去において、みんな1ヵ月前くらいで(出馬宣言を)やっている。
清宮 福田さんが「光ありてかがやかず」という老子の一節を色紙に書いて配られたというが・・・。
福田 官房長官時代の話です。官房長官は女房役だから自分では光ってはいけない、自戒の言葉です。
清宮 今も自戒として・・・。
福田 小泉内閣は満5年経った。私は3年間仕えたが、イラク、北朝鮮、靖国など未解決の問題がいろいろある。これらは私にも責任がある小泉首相にすべて責任をおっかぶせるわけにはいかない。
清宮 その自戒を持っていずれは臨まれると。私はそういうふうに。
福田 しつこいですね。
清宮 しつこくないと新聞記者にはなれないですよ(笑い)。答えにくいことを精いっぱい答えていただいた、という気がしております。どうもありがとうございました。 (拍手)
(週刊「世界と日本」1714号。講演録はじゅん刊「世界と日本」1068号に掲載) 戻る |