トヨタウェイ−改善、現地現物、チャレンジ−
トヨタ自動車副会長 張 富士夫
内外ニュース東京懇談会3月例会は28日、東京・キャピトル東急ホテルで行われ、トヨタ自動車副会長の張富士夫氏が、「トヨタウェイ」と題して講演した。張氏は社長時代の3年前に、同懇談会にお出でいただき、今回が2回目。日米での体験をもとに、その後の「トヨタウェイ」について、その柱である「改善」「現地現物」「チャレンジ」などを具体的事例で示した。また、農耕民族である、日本独特の文化が影響しているとする「KAIZEN」を軸に、今、世界のトヨタがグループとして目指す方策も述べた。 (講演要旨は次の通り)
(3年前にここで、同じ演題「トヨタウェイ」で講演させていただいたが)きょうは、その後の「トヨタウェイ」について、いろいろな事例を混せて思っていることを申し上げたい。
最初にわが社の状況だが、全世界170ヵ国ぐらいで車を販売している。昔は輸出ばかりで大変な貿易摩擦を生じたが、この20年間ぐらいで、世界の26力国・51の現地生産拠点を増やし、生産台数も今年は790万台ぐらいになる。ここ数年間は、生産台数が年50万台ずつぐらい増えているが、ほとんどは海外で伸びている。
「なぜ伸びるのか?」 ディーラーなどいろいろな人の話を聞くと、品質がいいとか、故障しないとかのトヨタのブランドイメージが、ある程度、世界中で定着してきているから強いのだ、と。
原価改善が生み出す、年1000億円の(収益の)半分ぐらいは、お客への還元で車を良くするほうに使っており、また、造る方は面倒だが、170市場の「現地のテイスト(好み)」にあった車を設計している。それがいいのだ、とも。
「市場の声に対応しよう」という姿勢が一番大事、と私どもは思っており、これを支えるのが「改善」という考え方だ。 「トヨタウェイ」の大きな柱として、「改善」「現地現物」「チャレンジ」などがあるが、その中でもこの「改善」が強いバックボーンになっている。
「改善」の一番基本は、あ、ここに無駄があるね、と気がつく度に直していく動作だ。ライン、工場、さらには経営全体にも及び、気がついたらどんどんやる。だから、毎日毎日やるような行動だ。
1986年に私はアメリカのケンタッキーに赴任したが、現地には「インプルーブメント」という言葉はあるが、“毎日毎日”変える、改良するというような考え方はない、と分かった。一方、日本人は「何かいいやり方はないか」と一生懸命に考えるが、それを見て、「何かいい道具はないか」と、すぐ道具を考えるアメリカ人との発想の違いも、非常に面白いなと思った。
そんなことで、「改善」という日本語をそのまま使おうと、20年ぐらい前に「KAIZEN」という言葉を会社の中の言葉とした。しばらくやってみたら米人が、これは 「Daily
Continuous Improvement」だねと。一語の言葉としてはないようだから−でもこれはアメリカだからと私は思っていたら、昨年来日したヨーロッパ現地の人の話で、ヨーロッパにもないことも分かった。少しずつ改良しながら育てていくやり方は、農耕民族の日本独特の文化が影響しているのかもしれない。
大野(耐一・元副社長)さんがいつも言っていたが、「買った機械はそのまま使うな。必ず使いにくいとか不完全なところとか、何か出てくる。それを自分で直せ」「直したところは黄色いペンキを塗っておけ」と。現場を回るとペンキのあるなしは非常に目立つ。みんな競って、やりにくいところをどんどん直していく。元は一緒でも、変えていくうちに原型をとどめない、全く別のものになる。
さらに、「思い切ってやれ」「必ず結果をみろ」「良いか悪いかチェックしろ」「悪かったらもう一度直せ」―こういうふうにクルクル回していく。「9回失敗しても10回目に成功すればいい」「失敗したらすぐ直すぞ、という気持ちが大事だ」
失敗が教えてくれる。失敗から学ぶためには「現地現物」で、常に現場でモノを見ながら調べろと。私どもの「トヨタウェイ」で、「改善」というものと「現地現物」、「チャレンジ」がセットになっているのはそういうことだ。
日本人だけでアメリカ社会に対応しよう、というのは絶対に無理だと嫌というほど感じさせられた。そこで私が急ぎたいと思ったのは、現地の人を早く現地の社長にしたいと。本社からは「そんな何も教育していないアメリカ人に(社長を)渡したら、どういう方向に走っていくか分からないじゃないか」と。
私どもが大事と思って守ってきた「価値観」を、きっちり胸に納めて実行できるような人を早くつくり、その人に社長を渡そう、ということで「トヨタウェイ」を2001年につくった。
ほぼ同時に、「トヨタ・インスティチュート」という学校をつくった。世界中のトヨタ子会社トップの外国人を交代で集め、日本でのやり方を全部見て歩くなど、2週間ぐらいしっかり教え込む。秋にはアメリカのウォートン・スクールに行ってマネジメントを勉強する。
そして今は、相当数の現地人が社長をやるようになった。片方で教育し、片方でどんどん仲間に入れていくやり方で、本社取締役の常務以下を常務役員にして、外国の人にも少しなってもらった。
「グローバル生産センター」は3年ぐらい前からスタートさせた。世界のトヨタの会社の外国人を呼び、主に現場と生産部隊、システム部隊だが、生産準備、個々のスキルの訓練とかを一緒に勉強する。いろんな国の人が一緒になり、横の連絡も非常に良くなった。
チャレンジンクな話だが「日本でつくっていない車を、世界のトヨタの人たちがみんな集まってつくる」プロジェクトが昨年スタートした。IMV(International Innovative
Multi Purpose Vehicle)という名で、5つぐらいの車型にしてつくらせた。これは日本が設計だけをやり、その後何もしないということで、トヨタグループとしては初めてのことだ。本当にうまくできるか心配だったが、タイとかマレーシアとかインドネシアで、現地の部品を使うので大変安くでき、すごくたくさん売れている。素晴らしいことに現地では、、大変自信をつけている。こういうやり方がだんだん増えていくだろうと思う。
(週刊「世界と日本」1711号。講演録はじゅん刊「世界と日本」1065号に掲載) 戻る |