小さくても温かい政府めざす
 これからの日本
             外務大臣 麻生太郎氏 vs 内外ニュース会長 清宮龍


 内外ニュース東京懇談会7月例会は4日、赤坂プリンスホテルで開催、麻生太郎外務大臣が「これからの日本」と題し、本社清宮龍会長との対談形式で講演した。麻生氏は自民党総裁選をめぐり「森派(首相)が3代つづくのはどうかと、みんな思っている。巨大な派閥に対抗するクループを作っておく必要がある」と、大宏池会構想に前向きの姿勢を示した。また来年の参院遺に関連し、郵政民営化法案に反対し離党した議員について「後援会に自民党員が多いので、応援をきちんとした形で取り付けることは避けて通れない」と述べた。(講演要旨は次の通り)


対米外交は今が戦後最良の時期 日本、アジアの中で孤立していない

 清宮 麻生さんは、自民党総裁選に出馬表明をされている。総理総裁になったらやりたい政策を2つ、3つ挙げていただきたい。
 麻生 私の属する派閥は党内最小派閥で20人いない。自民党国会議員の推薦が20人集まったら、立候補させていただくと申し上げている。
 なったら何をしたいか。やらなくてはいけない一つは、教育の問題だ。日本の伝統、歴史、文化、そして祖先崇拝とか自然との共生などは、日本人が長く持ち続けてきた根本的なものだ。こういったものはきちんと教育の場でやり直す。家庭教育では時間かかかるが、幼稚園くらいから義務教育化するなどのやり方もある。
 また、避けて通れないのは少子・高齢化問題だ。全人口の約21%が65歳以上の高齢者だが、よく調べると85%は元気な方だ。高齢者でも働ける人には、制度、税制などの優遇措置で、活力ある高齢化社会をつくる。そうすれば税収も増えるし、国全体として出費が減る。国のバランスシートを考えるのは、政治家の仕事だ。
 もう一つ言わせていただくと、この5年間、規制緩和によって活力が生まれた。しかし、明らかに地域間の格差がついた。個人格差、企業間格差が出るのはやむをえないが、景気回復は都市に偏って進んだ。地方においても、高規格道路など基本インフラは(都市と)同じにすべきだ。小さくても温かい政府をつくっていかねばならない。
 清宮 麻生さんは経営者の経験がある。その経験から学んだものは何か。それを政治の世界にどう生かしていかれるか。
 麻生 私はもともと石炭屋だった。昭和35年のいわゆるエネルギー革命により、大手の炭鉱は昭和45年に閉山した。幸い時代は高度経済成長期だったので、石炭からセメントに変えていったり、いろいろと努力し私が総務大臣になった時、市町村の数は3420程度あったと思うが、今は1820。2年間で約1600市町村を減らした。市町村会議員は少なくとも1万9980人減らしている。
 その結果、行政単位は大きくなったがその分、行政は上手に経営をしてもらわねばならない。これからは市長、首長の経営能力が問われる。地方分権というのは地域同士が競争する時代だ。いい経営感覚を持った首長を選ばないと、住民が割を食うことになるだろう。
 国家経営も同じことだ。日本の国が持っているブランド・イメージが国益、国力につながると思う。そういう気持ちで国家を経営していかねばならない時代だ。
 清宮 いま話に上っている総裁候補は4人だが、他の人と比較して、自分の魅力、特色はこれだという点は・・・。
 麻生 3人と比較して、性格的には明るいことだけは間違いないと思う。総務大臣をやったおかげで、地方経済に詳しくなったこと。経営者の時代があったので経営の部分が分かる。横文字に不自出がない。あと、政調会長を2期半、経企庁長官、経済財政政策担当大臣をやったりしたので、キャリアパス、経験が長いと言えるとは思うが・・・。
 清宮 今の日本、やはり明るい指導者が必要だ。指導者が明るいと国力も上昇気流に乗る。持ち前の明るさで日本を引っ張っていくような立場に立っていただきたいと、個人的にはそう思っている。ところで、麻生さんは吉田茂さんの孫で、奥さんのお父さんは鈴木善幸元首相だ。鈴木さんからどんなものを学んだか。
 麻生 当選2回の時に父親が亡くなり、当時、日経連会長だった桜田武さんに連れられて宏他会に入ることになった。すでに鈴木善幸内閣で、新人会員が順番に鈴木さんの自宅で食事をご馳走になっていた。それが最初だ。
 この方は、政局をよくみておられる方だった。伊達や酔興で9期11年間、自民党の総務会長をやっておられたわけではないなと思っている。
 鈴木さんが衆議院の議場のいちばん後ろに座り、前の議席を見ていると、誰かと誰かが喋っている。その話(の内容)が全部分かる、という。しかし、ある時、江崎真澄先生(故人)にその確認をとったところ、本当だと言うんです。議席に座っていると、国会議員の動きがすべて分かるというのは恐ろしい才能だと、印象に残っている。人の話はよく聞くということは、この方に教えてもらった。
 清宮 外交問題をお聞きしたい。対中国、韓国、さらにはアジア外交をどう打開したらよいか。また中国の今後を見通していただきたい。
 麻生 対中国では、中国の国家主席と日本の内閣総理大臣との間で、靖国問題に端を発して事が込み入った形になってしまったままの状況にある。しかし、1972年に日中共同宣言が出された当時、日本と中国の間の人の往来は1年間で約1万人。今は1日1万人、年間400万人くらいになっている。
 年間貿易額は2200億ドルを超え、対米貿易よりも対中貿易のほうが上になった。2国関係は極めてうまくいっている。
 アジアの中で日本がいちばん力を持っているのは、サブカルチャーといわれる世界だ。J−ポップス、ジャパニメーション、J−ファッション、この3つが「3J」と言われている。椎名林檎というJ−ポップスの歌手がいる。3年ほど前『タイムマガジン』という雑誌の表紙になった。
 それによると、日本はハードの国だと思っているが、実はソフトの国だ。アジアではミッキーマウス、ドナルドダックなどは、とっくにドラエもん、ポケットモンスターに取って代わられている。歌はアメリカのロックンロールは全く終わり、今はJ−ポップスと言われるものが流行っている・・・と。
 J−ファッションについて言えば、アジアで一番古い大学であるバンコクのチュラロンコン大学の女子大学生100人に聞きました。「あなたはもし生まれ変わってきたら、何国人の何(男、女)に生まれたいですか」日本人の女(という答え)が32人です。ちなみにアメリカの女は14人でした。日本人の男はゼロです(笑)。いちばんカッコイイものを着ている。いちばん金離れがいい。いちばんさっそうとバンコクの街を歩いている。それが日本人の女なのです。日本のファッション雑誌のほとんどが、東南アジアで販売されている。
 日本のサブカルチャーと言われるものが、日本の政治家とは別のところで、間違いなくものすごい勢いで広まっている。日本はアジアの中で決して孤立していない。
 BBC放送が世界33カ国を対象に4万人のアンケート調査をした。「世界で最も貢献している国はどこですか」。一番は日本です。インドネシアでは87%の人が日本と答えている。インドネシアの対日感情がどうとか、昔の田中総理訪問時代のことをいまだに書いている雑誌があるが、それは全然偏っている。アジアにおける日本の影響は非常に大きくなっている。
 今後どうしていくかという質問だが、例えば中国の経済が台頭してきている。いい事だが、どれくらいのスピードで経済成長させるかなどという方法は、簡単にできるわけではない。今(中国では)公害問題、貧富格差、地域間格差、そして暴動、失業問題。これらの問題を抱える、悩める大国になっている。
 こうした問題はかつて日本が過去、実践的にヤってきた事ばかりだ。今アジアの悩んでいる国々に対して、われわれの経験をぜひ分かち合ってレかるべきだ。
 清宮 次に対米外交だ・・・。
 麻生 戦後60年の中で対米外交が最もうまくいっている時期は、今と答えるのが歴史的に正しいことになると思う。いままで日本の総理大臣で大統領の自宅に呼ばれて、泊まり、食事をしたのは小泉さんだけだ。 9・11、またイラク自衛隊派遣以降、インド洋の給油作戦などアメリカと一緒に戦っているというイメージは、完全にでき上がっている。
 ただし、契約というものは常に作動できるようにする生き物だ。「世界の中の日米同盟」というような契約をちゃんと作動せしめていく努力は今後とも必要だ。
 冷戦構造が終わり、米ソ2極だったが1極になったのはよくない、という意見がある。しかし、ロシアの1極とか中国の1極ならば考えなければいけないかも知れないが、少なくともアメリカの1極はそんなに悪いことか。冷静に考えるべきだ。
 ちなみに国内では1極が長く続いている。平安時代は平家の1極、江戸時代は徳川家の1極。ではわれわれは世界の中の譜代親藩大名になれるか。それは無理だ。親藩はイギリス、カナダ、オーストラリアなどのアングロサクソン。譜代大名はフランスなどの旧連合国側。日本はしょせん外様大名である。外様でも 加賀百万石・前田藩。伊勢・伊賀三十七万石・藤堂藩。いずれも江戸370年栄えた大名ではないか。日本は今、最もうまくいっている外様大名だ。
 イラクで自衛隊ががんばってくれ、うまく撤収ができ、それが完了すると、世界の中での日本の評価はさらに上がってくる。大きく変わりつつあることの、始まりかなと考えている。

参院選、地方組織の立て直し必要 巨大派閥に対抗勢力結集「悪くない」

 清宮 来年の参議院選挙は大きな壁だ。地方の選挙区で郵政造反議員の協力をえなければなかなか大変だ。造反議員をうまく味方に引き入れて、戟う体制をつくる必要があると思うが・・・。
 麻生 参議院は自民・公明の与党で、過半数を13議席超えている。これを割ると参議院で法案が通らないということになる。その意味で、来年の参議院選挙は大きな要素を占めている。  その前に今年10月22目に行われる神奈川と大阪の衆議院補欠選挙がある。その結果が今年の臨時国会の流れを決めるから、きちんとクリアしていくととが非常に大事だ。
 参議院選挙では29ある1人区でいくら(議席が)取れるかが、肝心なところである。この5年間、 小泉内閣の間に自民党の支持組織は郵政に限らず、かなり破壊されている。この地方組織をいかに立て直すかが、次の総裁、幹事長に与えられる最も大きな仕事だろう。
 それに当たっては青票(郵政改革反対票)組と言われる方々でも、自分の後援会はほとんどが自民党支持なので、そういった人たちの応援を取り付けるという対応をしなければいけない。
 清宮 麻生さんは有名なお金持ちだが、日本の中で金持ちが変質してきた。ホリエモンがその典型だと思うが、それが経団連の会員になり、自民党が準公認のような形で立候補させた。その点はどうか。
 麻生 昔、例えば横井英樹さんとか小佐野賢治さんといった方々は、分をわきまえておられた。成金と金持ちはやはり違うと思う。どこが違うかと言えば、たぶん金の使い方が違う。例えば、昔からのお金持ちは村の鎮守様の寄付に10万円出すが、銀座・六本木のボーイのチップは3000円。しかし、成金はワニ皮の財布から10万円を出してボーイにやる。ありがとうとは言うけれども、成金だなと尊敬されない。
 日本もITのおかげで出てきた方々もいるが、少し時間がたつと淘汰されていくのかなという感じがする。
 清宮 小選挙区制になって、政策よりも迎合的にうまいことを言った人が票をかせぐ。トップに担ぐ党首の人気によって当落が左右される。政治の流れがおかしくなっているのではないか。総裁選も、世論調査の人気で流れができつつあるのは残念なことだと思うが・・・。
 麻生 テレポリティックスといわれる時代になって、かなり時間か経った。小泉総理が総裁選に出てきた時、人気の高かった田中真紀子さんが小泉さんを総理に、と発言された。今はすっかり忘れたような顔をしているが・・・。
 小選挙区で4回選挙をしているが、総裁人気だけで都市部で勝ったとは、一概には言えない。昨年9月の選挙で、自民党は都市部で絶対に強いと自信があった。世論調査で政治に対する希望は、ダントツに治安の回復が挙げられた。
 (世論は)景気回復を望んでいると思っていたから、さすかに驚いた。そこで自民党は警察官1万人の増員をやった。空き交番をなくす。来年で2万人増になる。また待機児童ゼロ作戦などの都市政策をやった。政党は政策をきちんとやっていかないとだめだ。
 自民党のこれまでの既得権益が破壊されているから、破壊された人々の票が、うまくその他の部分に肩代わりされているか。党首の顔だけですべてということは、ちょっと今回もないのじゃないかという感じがする。いずれにせよ、参議院選挙で自民党かきちんと勝利できるか。政局を左右する大きなものだ。
 清宮 総裁選の中で出てくるのは、大宏池会構想だ。宏池会は今3つの派閥になってしまった。これが一緒になると74人という大派閥になる。
 麻生 宏池会は3つに分かれた。その時代に毎木曜日に例会でメシを食っていた人の数と、そうではない人の数でいったら、(今は)そうではない人の数が多いくらいになっている。ただのノスタルジアで(統一を)やろうという方は半分以下ではないか。
 今、森派・清和会だけがまとまっていて、森派・清和会の総理が3代つづくのはどうかとか、感情論として皆、声に出さないまでも腹の中では思っているだろう。チェック&バランスという言葉があるが、巨大な派閥が一つあった場合に、それに対抗するある程度のものを作っておく必要がある。できればそういうのが、3つくらいあったほうがいい。
 政策が合うところ、哲学、思想の合うところが一緒になっていくことは、決して悪いことではない。
 清宮 それができれば麻生政権は近づいてくると思う。ありがとうございました。

(週刊「世界と日本」1723号。講演録はじゅん刊「世界と日本」1073号に掲載) 戻る