政治の目標は「蒼生安寧」
 信頼される政治の回復をめざして
                自由民主党政調会長 麻生太郎


 内外ニュース東京懇談会6月例会は25日、キャピトル東急ホテルで行われ、自由民主党政務調査会長の麻生太郎氏が「信頼される政治の回復をめざして」と題し講演した。麻生氏は、日本国家の政治目標はずっと「蒼生安寧」であるが、「工業化社会の終焉」「冷戦構造の終わり」「デフレ」「少子高齢化」という、この10年間に起きた4つの大きな変化が、いま同時に日本を襲っていることが問題だと指摘。後世の人たちの評価に耐えるべく、政治の信頼回復めざし全力を挙げると述べた。   (講演要旨は次の通り)



  「信頼される政治・・・」ということだが、ついこの間まで皆さんほとんどの方、マスコミの方も政治に関心はなかった、ほぼそうだと思っている。しかし「政治に関心がない」ことは逆に言えば、いいことなのかもしれない。人間も健康に興味持つのは健康じゃない人だけだから。
  「政治に信頼がない」と言うが、信頼があった時代はいつごろだったのか。「おまえら政治は三流」 「俺たち財界は一流」と、皆さん方はボロクソに言っておられたじゃないか。その方たちはどこへ行かれたのか。
 政治家は国民の世論を聴かなきゃ次の選挙で落選だから、有権者の意見、地元の人の声を自分で歩いて直接聴かざるをえない。結果、おかしいなあと思うこともあり、そんなに流されることがなく、この国の民主主義はそれなりに作動している。
 また、世論は短期的に感情論に流され、何となくマスコミ世論に躍って引っかかることもあるが、長期的には、その常識、判断というのは、これまでも結構(民主主義に)合ってきたのではないかと、率直にそう思う。
 日米講和条約が昭和27年4月28日に発布され、日本は独立国として再出発。「国連」と「アメリカ」とはほぼ同一と思って、「国連」というものに入り、日米安全保障条約を結び、約50年間たった。その間、国連とUSはずっとほぼ歩みを一緒にしてきた。
 今回のイラク紛争で初めて、国連とアメリカの行動が分かれた。「国連を取るのですか、アメリカですか」という選択を迫られた。しかし、国連が日本国を防衛してくれるという保証はない。今回、問われているところはそこだ。小泉総理はアメリカを取った。
 イギリスと日本、この2カ国が大きな国の中で、アメリカ支持をはっきり言った。途端に「対米追随外交」と書くのが日本のマスコミで、その思考は(昔と)全然変わっていない。今回は「追随するということが何を意味するか」を考え、「選ぶ、選ばない」が、一番大事なところだった。
  「われわれ(国民)は今、大きな選択をした」という自覚が、多くの国民にあるだろうか。「対米追随」なんていうレベルの話とは全然違うのだ。
  「いかなる目的を持って政治をしているのか」だが、日本国家の政治目標はずっと「蒼生安寧(そうせいあんねい)」だ。「蒼生」とは国民という意味で、外交、国防、治安、経済、社会に対する政策はすべて手段であり、国民が安心した生活が送れるようにする、これこそが政治のすべてだ。ここの筋さえ外さなければ、そんなにおかしくなるはずはないのだが、妙に経済に偏った戦後だったり、何となく金に溺れてしまった一時期のバブルの時だったりした。
 この10年間、ものすごく大きな変化が4つ起きている。
 1つ目、それは「工業化社会の終焉」だ。明治維新この方、日本は近代工業国家をめざし大成功した。そして、「世に不学の人なからしめんと欲す」義務教育制度が極めて効果が大きく、またたくまに教育が普及した。徴兵制度も採用。海軍と陸軍は外国人先生を呼び、徹底的に模倣した結果、開国たかだか37年後の1905年には、帝政ロシアに勝った。
 それ以来、日本は列強の仲間入りをして今日、世界第2位の経済力を持つに至った。しかし「脱工業化社会」という言葉が10年以上になり、その間、間違いなく日本が変わったのに対し、われわれの社会構造はそれに適したものになったのかどうか。
 2つ目は「東西冷戦の終わり」である。冷戦が終わった結果、経済面でも影響が大きい。共産圏から大量の、安くて有能で労働意欲が極めて高い、若い労働力が一挙に自由主義経済市場に参入した。日本もお隣の中国との競争になった。
 そこに「デフレーション」が来た。これが3つ目だ。われわれは、いずれもインフレーション下の不況しか経験がない。デフレ不況の経験(者)は、いま世界中で誰もいない。日本も例外ではなく未知の分野なので、その対応に右往左往した。
 4つ目が「少子高齢化」。女性がー生かけて産む子どもの数、1・32人は世界最低。簡単に言えば結婚しない女性が増えた。ところが、兄弟が5人〜6人いる前提で年金、社会福祉、厚生などは作ってある。あと22年だつと、勤労者(16歳以上〜65歳)2・1人で1人の高齢者(を支える)。
 6人で1人が、2人で1人と。税金は3倍払ってもらわんといかん、ということになる。世界の先進国は皆、ほぼ同じ問題を抱えでいるが、これらの問題が「4つ同時に起きている」ことが今、最も難しいところだ。どうするかという答えだが、日本だけで(解決)できる問題でもない。自分たちの国の問題と、世界の問題と(区分して)考えるべきだ。
 独立を果たしてちょうど51年目に入った。「今の日本、これからの日本にとって何が大事なのだ」と、戦後というものをもう一回考え直すべき時期に来ているのではないか。
 国防意識もずいふん変わった。あと2年で日露戦争「戦勝百年記念」。これこそ20世紀初頭を飾るにふさわしい歴史的出来事だった、という事実をそろそろ思い出そうではないか。世界中がそれを認め、あれを境に「有色人種でも白人に勝てるかもしれん」という意欲を出させた。これぐらい多くの国々が、日本に感謝することもなかったことだろうと。
 政治の信頼を取り戻すのは簡単な話ではないが、政治家も人間だから100%は期待しないでいただきたい。政治家はいいこともやるけど、間違いもやった。しかし自民党は、開かれた国民政党として、どうして問題になったかを明らかにし、度々修正し、時代の要請に応える努力をし続けてきた。
 掃海艇の派遣にしても、また消費税の時にしても、どうしてもやらなきゃならんという時には、多少の反対があっても、「後世の人たちの評価に耐えられるか、耐えられないか」という視点に立って頑張ってきたのがわれわれの先輩だと思う。
 後に続く者としては、「蒼生安寧で、いかにあるべきか」を、常に腹に置いて考えていく。そういった人たちを応援していただければ、少なくとも政治に対する信頼は確実に回復し、この国が間違った方向に行かないように、私どもとして全力を挙げるということをお誓い申し上げたい。

(週刊「世界と日本」1586号。講演録はじゅん刊「世界と日本」に掲載) 戻る