これからの政治
内閣官房長官 安倍 晋三氏 vs 内外ニュース会長 清宮 龍
内外ニュース東京懇談会5月例会は24日、東京・全日空ホテルで行われ、内閣官房長官の安倍晋三氏が「これからの政治」と題し、当社清宮龍会長との対談形式で講演した。安倍氏は、格差社会の是正のために「再チャレンジ推進会議」を立ち上げたことから始まり、「教育基本法改正」「憲法改正」「アジア外交」など多方面にわたり、基本的な考え方および今後の見通しを述べた。また、自民党総裁選への正式な出馬表明は、7月中旬の主要国首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)終了後に行う考えを示した。(講演要旨は次の通り)
教育基本法・日本人としての誇りを持つ
憲法改正 次の内閣の大きな課題
清宮 日本経済は上向きに転じていると言われているが、大きな課題として「格差社会の是正」問題が挙げられている。小泉さんは「自由経済の下では格差が出るのは当然」と言われているが、それだけでいいのかなという気がする。
また、それと関連して、企業の業績回復の背景には、パートなど非正規雇用が急増、正規雇用が急激にしかも大幅に減少している。この現実に、どう対応したらよいか、まず伺いたい。
安倍 私には、格差問題というのは、かなりマスコミによってつくられている、という気がしてならない。格差が全くない世界はあり得ず、頑張った人と、あんまり頑張らなかった人に自然に差がつくのは当然だと、多くの国民は支持していると思う。
要は、この差が許容範囲をあまりにも超えているかどうかだ。またその差が、不公平な競争、平等でないルールによってもたらされたものであるならばそれはおかしい、ということであって、単に格差だけを問題にするのはどうか。
小泉内閣がスタートして5年目に入った。「改革なくして成長なし」で改革を進めてきた結果、経済は大変好調を取り戻し、この1〜3月、年率にして3%の成長を遂げた。これは10数年ぶりの好調さだ。そういう中では、景気のいい企業、大きな利益を出している会社、成功した人もたくさん出てくる。それらへのいろいろな思いが格差議論に、ある意味でバイアスをかけているのでは、とも思う。
大切なことは、頑張った人が、知恵をだした人が、一生懸命に汗を流した人たちが報われる社会だ。そして、公平でフェアな競争の中で切磋琢磨することにより、経済の力を、国力を押し上げていく。そういう社会を私たちはつくっていきたい。今、そのために改革を進めている。
そのような社会では、勝つ場合も負ける場合もあるが、それが固定化され、階級化されることがあってはならない。事業に一度失敗した経営者や職を失った人たちが、意欲を持って新たに挑戦できるような社会、誰にでももう一度、また何回もチャンスがある社会をつくっていくことが大切ではないか。そのために「再チャレンジ推進会議」を立ち上げた。
これには二つの観点がある。一つは、社会の仕組み、会社、そして政府の考え方などを変えていくこと。もう一つは、個々の「再チャレンジ支援のプログラム」をつくることで、場合によっては法制化していきたい。格差が出てきたと感じている人たちに対して、勇気を与えることも政治家として大切な使命だ。
清宮 安倍さんはよく「誇りを持てる国にしたい」と言っておられる。同感だが、そのためには具体的に何をどう変えていけばいいのか。今の 「教育基本法の改正」などもそういう方向を目指してのことと思うが−。
安倍 例えば海外に行ったとき「日本人として恥ずかしくない行動をしよう」と思うかどうかが大切で、そういう日本人としての誇りを持てるようにする。それがまた、真の国際人を育てていくことにつながっていく。
(それに関連して)今回の教育基本法の改正だがー。一条から改正条項を入れて十一条までの今までの法案はわりと簡素なものだ。読むと、個人の権利等々から、いきなり人類普遍の価値という原理まで飛んでおり、一見、大変立派なことが書いてあるが、そこには家族や、郷土、歴史、伝統、文化そして国など、(私たちが)大切にしなければいけないものがすっぽりと抜け落ちている。
「日本人として生まれたことに誇りを持つ」ためには、そうしたことをしっかりと子どもたちに教えていくことが大切ではないか。 また、「世界から尊敬されている」ということも、誇りが持てるということにとって、とても大切だ。世界に貢献していく際に「日本はこういう理想を持っており、こういう世界を実現していきたい」と、しっかりと述べていく必要がある。
世界の人たちが「日本の社会はダイナミックで挑戦や可能性に満ち、素晴らしい歴史や文化かあり、なんといっても崇高な理想を持っていて、自分もそれに共感する」。そういう思いで新しい日本人が誕生する、そのような国をつくっていきたいな、と私は思う。
清宮 「憲法改正」問題だが、基本的な考え方と、今後どういう運びにしていこうと思われているか。
安倍 2年前に私が幹事長に就任した時、二つのことを約束した。 一つは「自民党を変えていく、党改革をしっかりとやり遂げていく。自由民主党の立党50年に際しては、党の新しい理念と綱領をつくって発表する」
(二つ目は)「それと同時に、憲法の改正草案をその時までに書き上げる。それは逐条的改正ではなく、白地から、前文から全文を変えていく案を出す」という宣言をした。そして、昨年の11月、立党50年の時に森(喜朗)起草委員長によって発表された。
私は、国会議員になった当初から改憲論者だが、3つの点で憲法を改正すべきだと主張してきた。第一の理由だが、現行憲法は占領軍の手によって、憲法の専門家ではない人たちによって2週間そこそこで書き上げられた、と言われており、やはり国の基本法である限り、制定過程にもこだわらざるを得ない。
もう一つは、60年経って世界の情勢も大きく変わり、新しい価値観も生まれてきた。憲法九条を筆頭に、今の時代にそぐわない条項がいくつかある。
三番目は、国のかたちをどういうふうにしていくのか、21世紀にふさわしい新しい憲法に(現憲法を)自らの手で変えていくのだ、ということをみんなで国民的な議論にしていく。その精神こそが私は新しい時代を切り拓いていくことにつながっていく、と。そのためには“白地”からが必要だ。
自由民主党の案はできたが、憲法改正には広く深い議論が必要で時間を要するだろう。次の内閣では、まさに大きな課題となるのは違いない。
清宮 次の憲法が実現する年数として、大体の目標は?
安倍 大変難しい。今から5年以上はかかるだろうと思う。
アジア外交 インドなど民主主義陣営と戦略対話
総裁選、出馬表明はサミット後に
清宮 外交問題について−。最初に、行き詰まった対中、対韓、対アジア外交をどう打開していくのか、伺いたい。
安倍 「アジア外交が行き詰まっているのでは?」と、マスコミはじめ、党内、野党でも批判する人がいるが、それは視野狭窄的ではないかと思う。ほかの国々とはどうか。
インドももちろんアジアだ。日本との関係が有史以来もっとも盛んなインドは民主主義、自由主義、そして基本的な人権を守り、日本や欧米と同じ価値観を共有しており、それらがない国々がもっているリスクというものはない。また、(日本との)歴史的問題のリスクも全く存在しない、という両国関係に私は早くから注目している。
そして東南アジアの国々とは現在、FTA(Free Trade Agreement=自由貿易協定)/EPA(Economic
Partnership Agreement=経済連携協定)の締結を進めているが、これを加速度的に早めていく必要がある。
中央アジアの国々とはエネルギー戦略で重要性が高まっており、よしみを深めていく。オーストラリア、ニュージランドといった国々とも先般、日米豪の外相会議が開かれ、戦略対話を行った。
韓国は、日本と共通の価値観を持っており、現在、有史以来もっとも交流は盛んで、今までとは大きく関係が変わってきたからそれほど心配はしていない。
中国との関係だが、日本は中国に輸出や投資をし、大きな利益をあげている。一方、中国においても日本からの投資によって1000万人に近い雇用を創出している。この両者は切っても切れない関係である、ということをよく認識し合うことが大切だ。
両国間では、国境が接している以上、政治的な 利益や国益がぶつかる場合もあるが、コントロールして拡大させないように対話をすることが大切で、対話を閉じてはならない。お互いが違いを尊重しあうという、成熟した2国間関係が必要ではないかと思う。
清宮 北朝鮮問題だが−。安倍さんが小泉さんと向こうへ行かれて、大きな前進を図ることができた。これからは、どういうふうにあの国と対応していけばいいのだろうか。
安倍 北朝鮮が抱えている問題は極めて明確になっている。核、ミサイル、そして拉致問題の3つだ。 核問題は6カ国協議という場で解決していきたい。北朝鮮に対し最も影響力の強い中国が議長を務めているが、中国は、国際社会における大切な責任をしっかりと果たし、もう少し影響力を行使してもらいたい。
拉致問題は多くの国々から、基本的には日朝の2国問関係だと思われている。しかしアメリカは全面的に日本の立場を支持している。これは確かで、世界でも米国だけだ。同盟国というものはそういうものだ。対話と圧力で、北朝鮮が生存者を全員日本に帰すまで拉致問題は終わらない、というのが私の姿勢だ。3つの問題が解決されれば、日朝の国交は回復する。一方、国内では不法行為に対して厳格な法執行班をつくった。それにより次々と摘発が可能になり、最近の数力月では大きな成果を挙げている。
もう一つは、国際社会に訴え、北朝鮮に対して拉致問題を解決するよう圧力をかけてもらうことだ。横田早紀江さんがブッシュ大統領と面会したということは大変大きな成果で、米国の下院公聴会でも証言し、大きな感動を呼んだ。今度のサミットではしっかりと議題にしていきたい。
清宮 世論調査によると、ポスト小泉の支持率で安倍さんは圧倒的な数字を得ているが、この現実をどう感じておられるか。その人気の背景には中国、韓国などへの強い姿勢が評価につながっていると思うが。
安倍 世論調査で高い評価を得ているのは、政治家として大変光栄だ。2002年に小泉総理と訪朝した際、わりと高い支持をいただいたがそのあと3年以上経過している。その後、自民党で党改革を、小泉総理と(国の)改革を一生懸命努めてきたことなどが評価されているのではないか。
アジア外交については姿勢だけではなくて、ゲームプランをしっかりとつくり、結果を出せるかどうかだ。国益を確保したか、守ったかという一点だと思う。北朝鮮への対応も、制裁は目的でなくて結果が目的だから、最終的には対話をしなければならないのは当然だ。しかし、延々と続くような対話が目的になってしまうと結果は出てこない。
清宮 ここで(総裁選)出馬の決意表明を伺えたらと−。今の時期はなかなか無理なのでしょうが、大体いつ頃に最終的な決断をされるか。
安倍 今、私は官房長官という役職にある。内閣の要として小泉総理の改革を最後まで支えていく大きな責任がある。この職責をしっかりと努めていくことによって、おのずと道が決まってくる。
国会が終わってもサミットがある。いずれかの時点では、私がどう考えているかということを表明しなければならないと思うが、サミットが終わって、どのタイミングなのかということは、またさらに考えていかなければならない、と思っている。
清宮 今のお立場で精一杯のお答えだと−。お忙しいところ、よくおいでいただきました。ありがとうございます。
(週刊「世界と日本」1718号。講演録はじゅん刊「世界と日本」1070号に掲載) 戻る |